忘れられないあだ名
私は中学、高校とソフトテニス部に所属していた。キャプテンを務めたり地区の選抜に選ばれるなどかなり真剣に6年間打ち込んでいた。
練習中も決して手は抜かず、常に後輩に見本となるプレーを心がけた。しかし、緊張の糸を巡らせた状態で部活をやっていたせいか、思わぬところに代償が現れてしまった。
口癖が「うんこ漏らした」になってしまったのである。
もちろんうんこなど漏らしていない。高校生にもなってそんな頻繁にうんこなど漏らさない。けれど、口から溢れるように発してしまうのだ。
最初は主にテニスのプレーでミスした際に言ってしまうことが多かったが、使っていくうちにこの口癖の便利さに気づいてしまった。
例 サーブをミスした場合 「やべ うんこ漏らしたわ」
ボールとタイミングが合わなかった場合 「今うんこ漏れてた?」
テストで赤点だった場合「やっぱりうんこ漏れてたわ」
使いどころが無限にあるこの口癖はどんどんと私の生活になじんでいった。
高2の秋、部活の地区大会に出場しベンチに座り試合を待っている時、後ろで誰かが呟いた。
「あっ 漏らす人じゃん」
他校の生徒は私のことを「クソ漏らし」だと認識していたのだ。
悲しみよりもうんこを漏らしていないのに「クソ漏らし」を襲名してしまったことに驚きを感じていた。
高3の春、再度地区大会に出場した。この日はプレーの調子も良くトントン拍子で団体戦の決勝までたどり着いた。
試合には惜しくも敗れてしまったが決勝ということもあり、他校の部員も私たちの試合を観戦していた。
試合を終え、ベンチから観客席へ引き上げる際、どこからともなく聞こえてきた。
「のび太くん 意外と上手いな」
確かに当時の私はガリガリ痩せており、眼鏡をかけていた。しかもユニフォームの色は黄色。
「確かになぁ」
そう呟くことしかできなかった。
「クソ漏らし」のおかげで霞んではいるが、「のび太」というシンプルに見た目をDisるあだ名も中々に刺さる。心に少々の傷を抱えたまま私は部活を引退した。
それから数年経ったある日、当時の後輩たちと久しぶりに再会した。昔話に花を咲かせ楽しい時間を過ごしていたが、話題は地区大会の話に移った。
幸いにも「クソ漏らし」「のび太」のことに触れるものはおらず、安心したその時
後輩の一人が切り出した。
「そこらへんって先輩がクソ眼鏡って呼ばれてた時期でしたっけ?」
合体させるなよ